しかし今年度の論文がこれ一本だけというのもほんまに申し訳ない

コモンズと文化―文化は誰のものか

コモンズと文化―文化は誰のものか

日文研で2006年度-08年度に参加した共同研究の報告書。「真似・パクリ・著作権―模倣と収奪のあいだにあるもの」という論文を書きました。パクリ概念の歴史とバブル期のその変容(剽窃が財産権侵害のカテゴリに回収されていく過程)について小括したもの。もう少し子細にこの辺は調べる必要があるんですがとりあえず日本語のパクリ概念史の叩き台くらいにはなりますやろか。拙稿はともかく、編者の山田奨治さんがおっしゃるように、文化的コモンズ(レッシグ的な)の議論を、先行して研究が積み重ねられてきた土地コモンズ論と接続しつつ、理論的な深化をはかるヒントとなる論考が多数あり興味深い。というかもうすこし共同研究のときに勉強しながら臨めばよかったと後悔至極。特にコモンズ論の代表的論者である井上真氏と菅豊氏の「対立」がスリリング。コモンズ概念の適用可能性を広げようとする汎コモンズ論―井上論文と、コモンズ概念の「濫用」を戒める菅論文を併せ読めば、もはや「クリエイティヴ・コモンズは競合性のない情報財対象の制度だから土地所有制度なんか関係ないよー」と極楽とんぼを決め込む訳にはいかないだろう(いままで決め込んでました。すんません)。また近世土地所有制度の近代化を論じる奥田論文にも、「近代的所有」のわれわれの環境における歴史の浅さに関して教わることが多かった。この共同研究の成果として、山田さんが序論で整理した「所有」「管理」「用益」の三アプローチをコモンズ(的)現象を見る際の座標軸とする、という視点が明確化されたことが挙げられるだろうが、この方向で例えば私ならば作者論への適用(というかフーコー/バルト的な作者概念の更新)などのように、それぞれの持ち場でその適用可能性を吟味していくのが今後の課題となるのだろう。いずれにせよ、「文化所有論」とでもいうべき新しい問題領域を立てるとするならばまずもって今後の基礎文献となるだろうこのような本に関わらせていただきましてありがとうございました(というか延々と原稿を遅らせたご迷惑に深くお詫び申し上げます次第)。