日本ポピュラー音楽学会ワークショップのお知らせ(12-11-27追記あり

日本ポピュラー音楽学会第24回全国大会(12/8-12/9、於 武蔵大学社会学部)でワークショップを行います。詳細は下記の通り。

▼ワークショップC  1号館2階1201教室
 12/9(日) 14:00〜17:00

ポピュラー音楽の美学と存在論―今井論文をめぐるオープン・ディスカッション

問題提起者:増田聡大阪市立大学:コーディネーター)
問題提起者:今井晋(東京大学大学院)
司会・討論者:谷口文和(亜細亜大学短期大学部


 近年の日本のポピュラー音楽研究の発展は、主に社会科学あるいは文化研究的な研究関心を中心としつつ展開してきているといえる。そのなかで、今井晋が今春発表した論文「ポピュラー音楽の存在論―《トラック》、《楽曲》、《演奏》」(『ポピュラー音楽研究』Vol.15、2011)は、このような研究状況の中で相対的に手薄であった美学的アプローチに則り、正面から「ポピュラー音楽の存在論」を展開した論文として注目に値する。
 ポピュラー音楽に関する美学的アプローチの(日本語圏の)先行研究として、今井論文は細川周平『レコードの美学』(勁草書房、1990)、増田聡『その音楽の〈作者〉とは誰か』(みすず書房、2005)を挙げ、両者のいずれもが主要な検討対象として扱ってきたポピュラー音楽の存在論に関する議論を深化させた。両先行研究の理論的な問題点を今井論文は次のように指摘する。細川著は、ポピュラー音楽の美学において重要な「サウンド」概念を作品概念と対立的に位置づけるあまり、その聴取における主観性が強調されることでポピュラー音楽の存在の同一性の基盤を堀り崩しているとする。また増田著については、ライヴ文化/ディスク文化という「二つの音楽文化・二つの作品概念」の対比を強調することによって、現にポピュラー音楽の聴取者が両者を同時に鑑賞している実情を捉え損なっているとしている。
 このような細川・増田の批判的検討を踏まえ、ライヴ鑑賞およびレコード鑑賞において「鑑賞の対象となっているもの」を、分析美学的な手法によって《楽曲》《演奏》《トラック》の三つの存在者として摘出し、統一的な論理のもとに整理する今井論文は、日本語圏のこれまでのポピュラー音楽への美学的アプローチの問題意識を踏まえ、批判的に継承しつつ次の議論へと開こうとする論文であるといえよう。であるならば、議論は継続されなければなるまい。
 本ワークショップは、今井論文の姿勢に触発された増田が提案したものである。今井論文中にある増田への批判に対し討論にて直接応答すると共に、ポピュラー音楽への美学的アプローチが持つ意義と展開可能性を議論することを目的としている。
 まず、今井が本論文の概要と執筆の背景を簡潔に概説した後、増田は厳密な存在論的立場に立つ今井論文に対して、ややゆるやかな唯名論的立場に立ちながら、今井論文の批判に応答する。主に(今井論文が批判する)増田著の議論の背景を示しながら、「二つの作品概念」のメリットを擁護するとともに、今井論文の《トラック》概念が、(増田著のいう)ライヴ文化とディスク文化の交点ともいえる位置にあることを示そうと考える。いくつかのポピュラー音楽の録音物のリミックス/リマスタリングの実例検討を通じて、今井論文が「制作者の意図と機械的複製の過程」によって維持されるとした《トラック》存在の同一性が、「二つの作品概念」のせめぎあいの中で揺らぐ実例について、今井論文とは異なるかたちでの解釈を提示する予定である。その上で、今井論文の提出した論点の展開可能性についてメディア論の立場から意見を述べる。それを受けて今井の再反論が行われ、さらに、今井論文が援用する論文「レコード音楽がもたらす空間―音のメディア表現論」の著者である谷口がコメントを加えるとともに、三者およびフロアを交えた議論が行われることになるだろう。議論はあらかじめの筋書きに従うのではなく、対象と論点を提示した上で自由に行われる。
 なお、本ワークショップ参加者は、『ポピュラー音楽研究』Vol.15(2012年3月に会員には配布済み)所収の当該論文を持参の上、討議に参加されることをお勧めする(非会員には当日コピーを配布する予定)。今回のように、ひとつの論文をめぐってワークショップが行われるのは本学会では最初の試みである。より密度の濃い意見交換の場とすべく、フロア諸氏の議論への積極的な参加を期待したい。


【参考】
今井晋「ポピュラー音楽の存在論――《トラック》、《楽曲》、《演奏》」の要約
(『ポピュラー音楽研究』Vol.15,2011,pp.23-42)

本稿では音楽の哲学における存在論の議論を参考としながら、ポピュラー音楽のライヴ鑑賞とレコード鑑賞における対象の存在論的性格と関係を明らかにする。ポピュラー音楽の鑑賞の対象として《楽曲》・《演奏》・《トラック》という存在者があることが明らかになり、ライヴ鑑賞においては、《楽曲》と《演奏》の間に、レコード鑑賞においては《トラック》と同一の録音物の《再生》、および《楽曲》と同一の録音物の《再生》間それぞれに、タイプとトークンという一般的な存在論的関係があることも示される。さらに以上の存在者と関係を用い、ライヴやカヴァー、リマスターなどのポピュラー音楽の実践を統一的に説明する。

【今井論文の主要参考文献】
増田聡,2005,『その音楽の〈作者〉とは誰か――リミックス・産業・著作権みすず書房
増田聡・谷口文和,2005,『音楽未来形:デジタル時代の音楽文化のゆくえ』洋泉社
細川周平,1990,『レコードの美学』,勁草書房
谷口文和,2010,「レコード音楽がもたらす空間―音のメディア表現論」,『RATIO SPECIAL ISSUE 思想としての音楽』,講談社,pp.240-265.


日本ポピュラー音楽学会第24回全国大会(JASPM24)のサイトはこちら
http://jaspm24.wiki.fc2.com
非会員の方も(上記ワークショップを含む)全国大会に参加できます。


上記ワークショップに参加される方は、事前に今井晋「ポピュラー音楽の存在論――《トラック》、《楽曲》、《演奏》」(『ポピュラー音楽研究』Vol.15,2011,pp.23-42)を読んでおくとよいとおもうよ!会員の皆様には3月にお手元に届いているはずです。
非会員の方は…たぶん今井くん(http://d.hatena.ne.jp/shinimai/)がそのうちPDFで読めるようにしてくれるんじゃないかな…ま一応当日配布する予定ですが。

久しぶりに作品概念やレコード音楽について正面から議論することになりそうです。非会員のみなさまもぜひとも議論にご参加いただけましたら幸いに存じます。

12-11-27 追記
今井君が論文を公開してくれました。感謝!これご参照+ご持参でお越し下さい。
https://docs.google.com/open?id=0B2BZsarxhk7bYmQxbDlJcXZaVTg

12-11-27 さらに追記
吉田寛君(感性学・立命館大学准教授)が今回の議論に関連する論文「われわれは何を買わされているのか:新リマスターCDから考えるビートルズの「オーセンティシティ」」を公開してくれました。こちらもぜひご参考ください。討議で触れることになります(たぶん)
https://docs.google.com/file/d/0B1n_R0jRG9oBRmN5UW5SbU1WWVE/edit?pli=1